Catalysis

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ラジカル反応を制御する有機触媒

金属元素を含まず、有機化合物のみで構成される有機触媒は、環境調和・省資源・省エネルギーを目指す現代社会の要求に応える有機合成触媒技術であり、2021年ノーベル化学賞(不斉有機触媒の開発)の評価によって社会に広く認知された。しかし、従来の有機触媒を用いた反応は、付加型を代表とするイオン反応(2電子移動)が殆どであり、適用できる反応形式が制限されている。我々は、N-ヘテロ環カルベン(NHC)触媒や有機硫黄光触媒のような有機触媒を独自の手法でデザインし、これらを用いることで、1電子移動を伴うラジカル反応を能動的に制御することに成功した。本手法を用いて、これまで到達困難とされてきた、複雑かつ嵩高い有機分子の効率的合成に繋げた。 

チアゾール型NHC触媒を用いたラジカル型の炭素-炭素結合形成反応を開発し、アルデヒドと脂肪族カルボン酸誘導体から嵩高いケトンを合成した(図1)。本反応の特徴は、ラジカル反応機構に含まれる、“エノラート型ブレスロー中間体から電子受容体への1電子移動”と“1電子移動後に形成される異なる2つのラジカル種のカップリング”の各プロセスをNHC触媒により能動的に制御する点にある。さらに、3つのラジカル反応プロセス(1電子移動、ラジカル付加、ラジカル-ラジカルカップリング)をリレー型で繋ぐことで、アルデヒドとカルボン酸誘導体とアルケンを用いた3成分連結反応を開発した。現在、NHC触媒によるラジカル反応の適用範囲を拡大すべく、研究を展開している。たとえば、(1)電子受容体として脂肪族カルボン酸誘導体の代わりにハロゲン化アリールを利用した、アリールラジカル介在型NHC触媒反応(図2)、(2)可視光/NHC触媒を用いた有機ホウ素化合物の変換反応の開発(図3)に成功している。

可視光と有機硫黄触媒を組み合わせて用いることで、アルコールとカルボン酸誘導体から炭素-酸素結合形成反応を起こし、嵩高いエーテルを合成した(図4)。可視光により高エネルギー(励起状態)の有機硫黄触媒を形成させ、1電子移動を伴うラジカル反応を能動的に制御した。可視光励起した有機硫黄光触媒からカルボン酸誘導体への一電子移動、続く、触媒のラジカルカチオンとアルキルラジカルが再結合することで、カルボカチオン等価体であるアルキルスルホニウムが生成する。アルコールの代わりに、アミド、アゾール、チオール、フッ素のようなヘテロ元素反応剤を用いることで、さまざまな炭素-ヘテロ元素結合の形成も可能であった。本研究は、製薬企業と共同で実施され、創薬研究の加速に繋げた。